プロローグ
1999年10月16,17日、レスキュー講習の時に、それは起こりました。
講習は、土日を使った2日間で、1日目に学科とプール実習、
2日目に海洋実習を行ないました。
Cカードを取って、約1年3ヶ月、タンク本数117本の時でした。
受講者は、女性Nさんと二人。このNさんが、後に大変な経験をすることに・・・。
学科では、疲労ダイバー、パニックダイバー、意識不明ダイバーへの対応、
ファーストエード、CPRなどとともに、
セルフレスキューとしての、
レギュレータ、マスクのリカバリーやエア切れ対応など、様々なトラブルへの対処
の復習をしました。
プール実習では、学科で行われたことの実践、特にセルフレスキューが行われました。
印象に残っているのは、ウェイトをたくさん付けた状態での立ち泳ぎをして、
自分自身が疲労ダイバー体験をしたこと。また、水中での突然のマスク外されとバルブ閉じられ。
イントラの判断か、女性であるNさんに対してのバルブ閉じは、行われなかったみたいですが、
その分、突然マスクを外されることは、多かったみたいです。(←これ、伏線です。)
海洋実習
海洋実習は、場所設定からして、トラブルを感じさせるものでした。
当初予定、伊豆の大瀬崎(朝5時集合)だったものを、直前に越前(朝6時集合)に変更、
更に当日の朝集合すると、日本海上に低気圧があるという理由で、1時間遅いが、
やはり大瀬崎に行くという。
東名高速を移動中、イントラに「講習って、三保じゃ、ダメなんですか?」と聞くと、
「三保がありましたね。三保にしましょう!」と、また急遽変更。
そうして、三保の海岸、真崎での海洋実習となりました。
久しぶりの三保。このポイントは、細かな砂利のビーチ。
波打ち際から、すぐに深くなり、そのまま20mぐらいまで、一気に・・・、
スキーだとビビッてしまう斜面が続きます。
さて、海況はというと、波がちょっとあり、
海水浴場だと遊泳禁止にならないギリギリの波というところでしょうか。
湾の中から外へ向かっての流れも若干ありました。
そんな中で、Nさんと交代しながら、疲労ダイバーの曳航、曳航しながらのCPR、
ビーチへの引き上げとCPRなどを行いました。
Nさんは、ほとんど2倍の体重の自分を曳航したり、ビーチに引き上げたり、
とても大変だったと思います。それでも何とか予定の講習を終了しました。
三保の海岸
さて、海洋実習の締めは、ファンダイブです。
自分が、先頭ガイド役をすることになりました。
アドバンス講習の時にも先頭を経験しましたが、緊張するものです。
その時は、ただ、ナビゲーションのための先頭ガイド役でしたが、
今回は、グループコントロールをしながら、セルフレスキュー、
バディーやグループ内のパニックの兆候などを見逃さないように、
無事にファンダイブを終えて生還するという課題です。
もちろん最後尾には、イントラがいます。
ここで、このポイントの復習です。三保の海岸は、ダイビングポイントといっても、
釣り人が投げ釣りをやっていたり、すぐ近くをボートが走っていたり・・・、
管理されているダイビングポイントではありません。
すぐ目の前は、清水港への航路でもあり、途中浮上をすると、大変危険なポイントです。
波打ち際からすぐは、小砂利の駆け上がりで、ほぼ一定の角度で、下っています。
ボトムは、22〜25mほどで、沖の防波堤まで、細かな砂泥が広がっています。
トサカやムチヤギもあり、アカタチが有名ですね。
さて、ブリーフィングです。最大水深は、25m。時間は、40分。
30°方向に駆け上がりを一気に降りた後、330°方向に移動、
水深20mにある大きなウミトサカ(幹の直径30cm)をあてた後、
150°方向に斜面を斜めにゆっくり水深をあげながら、
若干ENTポイントを通り過ぎたあたりにEXT。
こんな感じで潜ります。
ファンダイビング
さて、ブリーフィングです。ガイド役の自分が進めます。
レスキュー講習ということを踏まえて、相手が初心者だったと想定して行いました。
1.簡単な自己紹介(名前、本数、経験年数)
2.相手の本数、経験年数の確認
3.体調確認(耳抜き、昨晩睡眠時間、食事)
4.過去の怖かった事、講習での苦手スキル確認
5.「器材を確認させてください。」と言って、器材確認
・・・レギュの色・形、オクトの形式・動作、
・・・インフレータボタンの位置・動作、バックルの位置・数・形状
・・・マスクの形・色、フィンの色、スーツの手足の色
6.自分のフィンの色・特徴を教えて、
よろしくお願いします。
実際のバディーのNさんは、約100本の顔見知り方ですが、講習ですから、真面目にやりました。
さて、ENT後、順調にダイビングを楽しみました。カゴカキダイを見て、シュスツヅミガイや
オトヒメエビなどを見て、無事、ウミトサカのところに行くことが出来ました。
本当に大きなウミトサカです。幹の直径が30cmぐらいで、高さが2mぐらい。圧巻でした。
時間は、約25分経過、残圧は約100。問題ありません。
さて、EXTポイントに向かって、帰途に着きます。
ゆっくりと駆け上がりを斜めに水深を上げて行きました。
釣糸と釣針
この駆け上がりは、小砂利で、ハオコゼがたくさんいます。
ゆっくりと進んでいると、釣糸が目立ってきました。
透明で、キラリと光らないと分からないもの、よく目立つ蛍光イエローのもの。
思ったより、たくさんの釣糸が放置されているなぁと考えている時、
なんだか違和感を感じて、後ろを振り向くと、Nさんの顔にマスクがない。
マスクは、Nさんのすぐ目の前の小砂利の水底に・・・。
Nさんが右手を伸ばして、マスクをつかもうとしている。
もちろん、マスクが外れているから、まともに見えていたわけではないと思う。
でも、何とかつかめそうに見えたその時、マスクがNさんの手から逃げたのです。
「なっ、何が起こったの!?」と考えていると、
後ろに居たイントラが逃げるマスクを捕まえて、マスクから何かをはずしている。
そう、マスクが釣られたのです。ちょうど、ストラップに釣針がかかっていたのです。
マスクを再装着したNさん。その後は、何事もなくEXTしました。
証言
EXT後、すぐにお互いなにが起こったのか、確認しました。
Nさんは、まだマスクが釣られたことは、わかっていなかったようです。
イントラは、逃げていくNさんのマスクを捕まえて、釣針をはずそうとしたのですが、
なかなか外れず、また、釣り人が糸を巻き上げていたようで、大変だったようです。
この時、ひっかかった釣針でグローブが破れたそうです。
Nさんは、水中でマスクが外れた時、実は、イントラに外されたと思っていたそうです。
前日のプール講習で、何度も外されていたマスク。
今回のファンダイブ、それも後半、あと少しで、EXTという時間帯に、マスクを外され、
「何もこんな時まで、外さなくてもいいじゃん!」と思っていたそうです。
もし、このマスクが釣られたのが、普通のファンダイブだたらと思うとゾッとします。
マスクを突然取られた人は、パニックになってもおかしくないですよね。今回は、たまたま講習中で、
直前にイントラにマスクを外されるということを経験していたため、パニックにならなかったんだと思います。
それに、針がマスクではなく、
顔や頭に直接刺さっていたら、どうなっていたことか。ちょっと怖いですね。
教訓
今回のこの小さな事故とレスキュー講習では、次のような教訓を得ました。
1.海の中では、何が起こるかわからない。何か起きたら、とにかく冷静に。
2.経験しているトラブルは、冷静でいられる可能性が高いので、
あらゆるトラブルを事前に経験、または、常にイメトレしておくと良い。
3.レスキュー講習を終了したからといって、人を救助することは、難しい。
4.だから、そうならないための予防措置が大切。
とにかく、沈着冷静になるのが重要ですね。
2006/9/7_小西
|